2016年8月27日土曜日

病理専門医試験の受け方 in 2016

#1 Test is a test is a test.

結果はわからないので(合格しました),いわゆる受験体験記.26 年度分については
http://blog.livedoor.jp/colorectan/archives/51962689.html
に詳しい.

同様に 28 年度分についても
http://minesot.seesaa.net/article/441121360.html
に詳しく書いてある.

結局のところ,試験勉強らしき試験勉強はあまり意味がなかったような気もするが,どこかの誰かの役に立つようになんとなく公開.

試験受付から試験開始までの間
[会場に到着するまで]
・滅茶苦茶暑い.蒲田駅から大森病院の会場まで歩いて行ったため,汗をかいて死ぬかと思った.
・服装は結構ラフな人もいたけど,ネクタイを占めていた人もちらほら.女性もズボンにシャツというラフな格好からやや正装に近い人まで.受験生のしおりには「クールビズを貴重とした」格好でとのことだが,ラフな格好で全く問題なし.

[筆記用具などの諸注意]
・筆記用具は鉛筆ということになっていたが,シャーペンを持って行っても何の問題もなかった.怖いので一応鉛筆を持ってはいったが.
・ペットボトル 1 本のみ持込可能ということになっている.ただし,甘いもの,炭酸に飲料は不可とのこと.飲むとトイレに行きたくなるので結局開けずに終了.

[解答方式について]
・試験問題の解答について,これまでは「原則日本語で」とのことであったが,今回からは日本語あるいは英語(必要に応じてドイツ語,ラテン語も可)になった.ただし,略語は不可とのこと.PLEVA とか正式名称で書ける気がしない...
・腫瘍の亜型も必要ならば書け,とのこと.はっきり言ってどこが必要でどこが不要か記載もないのにわかるわけもない.中途半端なことを書くと,かえって原点を食らいそうだし.過去問の解答を参考にするしかないか.

III 型試験問題
[試験の概要]
・標本 11 枚,試験問題,肉眼写真集,解答用紙(含む下書きの紙 1 枚)の 3 セットが配られる
・顕微鏡は自分の試験の時は olympus, 学生実習用.東邦大学の学生は結構いい顕微鏡使ってるんだなぁと実感.過去の人達が言っていたように,学生実習用なので,4/10/20/40 倍しかない.まぁこれでも十分だけど.
・試験時間は 150 分間.途中でトイレに立つ人がちらほら.

[試験の受け方]
・結局のところ,III 型問題は点取りゲームでしかない.重要な情報を pick up し,それらをもっともらしく配列することに限る.それをいかに時間内に終わらせるかということ.
・自分が実際にやった手順
  1. 最初の 15 分間の間に臨床情報,写真,組織をザーッと確認して,全体のおおまかな流れを頭に入れておく.最近の問題は易しいので,これで頭に入らないようだと多分厳しい.
  2. 次の 30 分で臨床情報を読み込む.線を引くなり,keyword を抽出する.この際に「喫煙歴」や「既往歴」及び「治療内容」は取りこぼしやすいので注意する.この際,病歴の紙に書いてあることは「必ず全て意義がある」ので,positive な所見あるいは negative な所見(いわゆる pertinent negative finding)であっても著しい矛盾を生じないかぎりは基本的に信用する(例:切片上副腎腺腫があるように見えても「肉眼的に副腎の大きさには著変を認めない」とあれば副腎腺腫ではない).
  3. 次に剖検所見及び写真からキーワードを抽出していく.
  4. さらに標本からキーワードを抽出する.配布されている標本には必ず意味がある.すなわち,直接死因に関わらないような臓器の標本については副病変あるいは潜在癌(甲状腺・前立腺)が必ず潜んでいるので,それを見つけ出す.他によくあるのは腫瘍の転移,血栓・塞栓,真菌・ウイルス感染 (CMV).自分も実際には見つけ出せなかったが,CMV 感染はそもそも論で,死ぬような人には結構な頻度で出てくるのと,注視して見ないと分からないのでそのつもりで探す.
  5. 主病変を決めたら,あとは副病変を漏らさないように pick up した紙から転記する.過去問の演習の際に分かったのが,線を引いただけだと,問題用紙に戻って見直すことが多くて,最初に下書きに転記しておいたほうが結局のところ時間の節約になった.
  6. 主病変,副病変を書き終えたら,死因を書く.本当の死因なんて誰にもわかんないから「主病変(A and/or B)により死亡したと考える」と書く以外ない気がする.過去問もだいたいそうなっている.
  7. フローチャートを書く.たいてい「糖尿病,高血圧,脂質異常症,B/C型肝炎,アルコール多飲」といった生活習慣病,慢性疾患,癌のキーワードが最初に来る.フローチャートを書く時に迷ったら,そういったキーワードからスタートしてみると意外と書きやすい.
・フローチャートに何を書くべきか,という決まりはなく,過去問を眺めていると実に自由.正直試験官自体もわかっていないのでは?と思う。結局のところ,自分としては「病理学的な事象(疾患名がつくもの全て.例:肺水腫,心筋梗塞,糖尿病性腎症…)」及び「治療内容(抗癌剤投与,輸液…)」,「背景因子(喫煙,アルコール摂取…)」をフローチャートに入れるべき項目として選んだ.多分これくらい入れればかなり充実したフローチャートになると思う.そして最後は死亡で締めくくる.
・ここ数年の傾向ではあるが,主病変は必ず臨床情報を読むだけで決定している.おそらく組織の読み間違いをして点数が壊滅的にならないように,との配慮であろう.初期研修医を終えていれば,まず問題ないが,過去問の演習で主病変を大きく外すことがあるようであれば,臨床的な知識が乏しいことを自覚し,シンプル病理学,シンプル内科学などの薄い教科書を一冊読んで,知識を蓄えるべきだと思う.
・臨床経過及び剖検に基づいた質問が 2 問ついてくるが,主病変・副病変の病理学的診断をかけていれば,自然と答えが出てくる.逆に,問題の問われ方から,主病変・副病変の記載が適切かどうかを確認する.
・「臨床経過を踏まえるとすごく重要だけど,どこと関連付けていいかよく分からない病理学的事象」はとりあえず別項目を立てておいて,面接の時に挽回する方が無難.

《I 型問題》
・写真問題 30 題,文章題 20 題.
・写真問題は結構ハードな問題が多かった.肉眼写真・レントゲン写真→弱拡大の組織像→強拡大あるいは特殊染色,免疫染色などと合わせて判定するような問題が多い.
・ただ,単に診断を当てるだけではなく,肺癌の区域を答えさせる問題(3 葉ある肺で上葉,かつ後方に腫瘍があるので S2 と言った問題)や,Burkitt lymphoma の組織像を提示し,8q24 で遺伝子が break apart している部分を撮影したと思われる FISH の写真を提示し(8q24 を認識するプローベという説明あり),c-MYC の転座であることを証明する問題など.
・文章題は細かい法律の問題が多い印象.はっきり言うと「そんなの分かるわけねー」的な問題が多い.
・法律は周辺も含めると勉強量が絶対的に多くなるから,cost performance を考えると,過去問+α程度の準備が一番効率的な気がした.

《面接試験》
・時間は 10 分,今回は 9 箇所の面接ブースで進行,最大待ち時間 2 時間くらい.大体遅くなる傾向にあるみたい.
・受験者 1 名 + 面接官 2 名.
・今年はIII 型(剖検)問題 → I 型問題 → 面接試験が同一日程だから,剖検問題の確認はないかと思ったが,実際には面接の時点では剖検問題はすでに普通に採点され,答案用紙が試験官の手元にあった.
・試験官の手元には写真集のようなものがあって,おそらく出来が悪かった部分の標本の重要な所見について,写真を提示し知っているかどうかの確認をするものと思われた.
・自分の場合は副腎のサイトメガロウイルス感染について写真を提示された後は,一応主病変の確認をして,もういいですかね?的な感じで終了.いや,副腎のサイトメガロウイルスは無理.おそらく数個程度?
・地味な話だけど,I 型問題の後,すぐ面接があって休憩時間がない.トイレに行くには面接官が立ち会う必要があって,なんか行きにくい雰囲気.行けるときにはさっさと行こう.

<1 日目終了>

《II 型問題》
IIa-c に共通すること:HE スライドのみの 1 枚で解答する.問題のリード文には年齢などの基本情報(○歳代、女性・男性。右肺上葉腫瘤切除検体)を端的に書いてある。基本的には「病理診断」を答える問題だが、例えば肺 VATS 検体でサルコイドーシスを念頭に置かせ,「予後不良を規定する臓器は?」(一応日本では心臓ということになっているが,,,)という one step を置いた出題もある.
・IIa, IIb, IIc に分かれているが,本質的な差は不明.全体を通してほぼ全臓器から出題されている(詳細は過去問の通り).
・IIa, IIb:それぞれ 20 問.外科手術材料を中心とした問題だが、EMR/ESD はここに含まれる.
・IIc:20 問.標本を1-2 分毎にベルに従い,隣に回して鏡検,解答する.生検を中心とした問題だが,本年から iPad Pro (色は gold だった) が登場して 1 問のみ iPad で標本を閲覧することになった.記念すべき iPad の出題は胆管癌の迅速断端で、誰が見ても明らかな positive の症例.

《全体的な感想》
III 型の剖検問題は昔に比べると難易度が下がっている印象だが,それでも一応〆るところは keep している感じ.全体の合格率は 86% 程度で,結果的に例年+αていどだったとのこと.
・I, II 型問題も普段の業務で遭遇しうる疾患や状況について問うている.肺腫瘍の位置の確認など,ルーチンをきちんとこなしている人にとってはなんでもないことだが,研究と合わせてやっている人にとっては厳しいかもしれない.
・全体的に多めではあるが,でも出題される疾患のばらつきによる過少評価・過大評価の対策としてはもう少し出題数が多くても良いかなという印象.
・みんな大変そうだったけど,ただ診断名のみで所見を書かなくて良い,脈管侵襲や深達度,切除断端などを考慮しなくて良いなどからすると,自分にとっては非常に楽な試験.まぁわからないものはどうひねってもわからないし.
・試験対策としては月並みな意見ではあるけれど,普段の日常業務をきちんとやっていれば問題ない気がする.裏を返せば,疾患に対してのある程度的確な知識,それも表層的な知識ではなく疾患バリエーションなどを含めた,実際に診断できるレベルの実践的な知識を要求している気がする.そういう意味である意味難しい.

<2 日目終了>

《使用した参考書》
有用だったもの
病理診断クイックレファランス:病理専門医試験の過去問が大方網羅されている.ただ重要な点は「項目が一致している」というだけで、少なくとも執筆者は専門医試験を想定した書き方をしているわけではないよう(数名の執筆者に確認済).
- 病理医・臨床医のための 病理診断アトラス Vol.1-3:なんかこういうアンチョコ本にお金を払うのは個人的に不服だが,便利だから仕方ない.
過去問 15 年分.ネットに転がっているか,誰かが持っているはず.古い問題でも疾患概念が変わっていない限りは出題されうる.
- 組織病理アトラス(5 版,古い,まだ値段が安い方,正直しばらくはこれで十分)及びカラーアトラス病理組織の見方と鑑別診断:いわゆる教科書的な事項を確認する。
 病理学会が公示している疾患リスト:これが教科書。眺めるだけでも。
- ポケット細胞診アトラス:細胞診を専門にしていなければ,レビュー以外に自ら検鏡する機会は極めて少ない.もちろん標本をみることは重要だけれども,基本的な知識として出題される疾患を大雑把に頭に入れておくことは重要.

意外と不要だったもの外科病理学を読むこと(試験内容からは結構遠い)。役に立ちそうで意外と役に立たなかった。白黒写真はやはり、イメージとして残りにくいのと、実際の症例を目の前にしても想起されにくい。もちろん、それでも対応できるようにするのが必要といえば必要なのだが。ただ,実際の診断においては外科病理学程度の内容はおおまかに頭に入れていないと厳しい...

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試験結果が出てからの感想

結果的にはまぁまぁの試験だった.教科書やネットでの検索が出来ないという behind な状況で受ける試験なので,その人の最大限の能力が引き出されているかどうかは不明だが,少なくともこの試験で不合格になる人はやはり診断能力に問題があると思う
いつから,何をすれば必要十分か.これに関しては病理診断自体のある種の特殊性から何とも言えない.診断専従の人は基本的に勉強しなくても合格自体はできるし,研究と合わせてやっている人は,診断に関与する時間が絶対的に少ないことを自覚してかなり早めに対策を練る必要がある.まぁ専門医試験を受けるくらいの学年の人はそこそこの経験のある人だろうから,過去問を見れば,だいたい自分の距離が分かって,ある程度の計算はできるのだろう.
70 -> 80%, 80 -> 90% の壁.これは他の分野においても言えるけど,60-70% くらいまでは比較的容易く,たどり着くけど,その後 100%に近づこうとすればするほど,cost performance が悪くなる.この中途半端から脱却するには数年に 1 回出会うか出会わないか分からない程度の疾患を一つ一つ丁寧に学習していく必要があって,結局近道はないんだと思う.