2012年3月11日日曜日

Clinical practice 7

久しぶり。今回も内科系。いつものように若干ぼかしが入っています。

Case 90歳代女性
病院受診歴なし。呼吸苦、食思不振を主訴に受診。ADLは車椅子レベル。既往は特記事項なし。内服なし。アレルギーなし。

全身状態は良好だが、ヒューヒュー言っていた。

#1 心不全 vs 気管支喘息
結構有名な鑑別で、聴診上wheezeが聞こえたら心不全か気管支喘息かを鑑別しろと。聴診上ははっきりはわからないけど、coarse crackleが両側で聞こえたら心不全に傾き、局所性に聞こえたら気管支喘息に肺炎がかぶっているかもと思うようにしている(実際はどうかよく分からなくてレントゲン撮っちゃうけど)。

これまで喘息の既往がなくてアレルギーらしいアレルギーもない。気管支喘息は否定的に思えた。気管支喘息の場合は大体既往があって本当の初診は実質ないと言っても過言ではない(∵小児科で一度は引っかかってる)。

なのでまぁ心不全だろうと思い心不全の原因検索を中心に行うこととした。

#2 治療すべきかしないべきか
ルーチンで肺野と心臓を聞いていたら右胸部に放散する収縮期雑音が聞こえた。AS…?エコーで確認してみるとやっぱりそう。

レントゲン上は心拡大が軽度あるものの、肺には水は溜まっていなさそう。足のむくみもないし。でもBNPが100くらいあるので心不全で良いだろう。エコー上も大動脈弁の石灰化が強く開口障害あり(poor studyとのこと)でASから来る心不全でよいだろうと。

でここで問題となるのはじゃあどうやって治療するか。ASの場合は根治的には手術(弁置換術)が適応となる。それも早い段階で必要。エコー上はpoor studyだが十分手術適応は有りそう。

しかし今のADLを考えると積極的には手術を勧めることはできない。本人は長生きしたいといっているけれど。家族に同意をとっておく必要がある。

保存的に診る場合はβ-blockerが使えない。特に治療らしい治療は出来ないということになっている。

予後に関して、狭心痛出現からの平均余命は5年、失神は3年、心不全は2年と言われる。

本人は動きまわることが無いので狭心痛や失神があったかどうかははっきりしない。喘鳴が心不全の症状だとすれば予後は2年程度、ということになる。こっちの勝手な言い分になるが、90歳まで生きれば十分ではないかと。本人や家族の前では決して言ってはいけないけれども。

#3 いかに対症療法を実践するか
心不全に対しての治療はARBか利尿剤か、くらい。降圧薬は予後のevidenceがあるのだろうけど、正直症状を取る薬としては疑問で利尿剤はたしかに効くけど、本人はご飯がまともに食べれていないという。血圧は低くなかったけど、そんな人に利尿剤をホイホイ打つと容易に脱水になってしまう。

栄養状態が悪くアルブミンが低いと血管外へ水分が容易に出ていくため、それも呼吸苦に加担しているかもしれない。そこに利尿剤を安易に打つと血管内脱水になって簡単に血圧が下がってしまう。

というわけで考えた末、喘息として治療することにした。

#4 心不全に対して喘息の治療はちょっとは効く
喘息の時の吸入はβ2アゴニストで、心臓はβ1受容体がメイン。だから効かないことになっているけど(しかも吸入だからより局所的)、経験上結構効く、一時的だけど

一時的でしかも根本的な原因がどうしようもない中でも前に進まなければいけない時にずらした治療が効果を示すことがある。

もしこれで効かなければ入院して全身管理が必要かと思っていたが(ご飯が食べられなければつまりそういうことになるわけで)、何とか持ちなおしてくれた。

テオドールが多すぎて途中で中止したくらい。

#5 今後のフォローアップをどうするか
90歳のおばあちゃんでこれまで薬を全く飲まなかった人が一時体調を崩してそこから薬を一生のみ続ける、という構図がどうかということ。

家族はなるべく薬はないほうが良いとのこと。正直90歳なら多分別の病気が命取りになりそうな気もする。本人がどうしても飲みたいといわれれば話は別だが、症状が落ちつている限りは投薬は必要ないのではと(予防をする意義が乏しい、再発予防は話は別だけど)。

というわけで、しばらくは「対症療法」的に一時だけ投薬をすることにした。

例えばこの状況であればARBくらいは使ってもよさそうだけれど、これを使って予後が改善するとはちょっと思えない。

通常のガイドラインはもっと若い人をターゲットにしているはずで、そういう人たちなら大動脈弁置換術も十分考慮されるしARBも早期から服薬したほうが良いと思う。

でもどっちみち予後が短い人に(これまで飲んでいたというのならまぁ話は別だけど)投与しても予後が伸びるとは思えない。

#6 投薬の中止の検討
一度始まった投薬を中止するのは結構難しい。副作用がひどいというのなら簡単だけど、現実に特に問題のない人に「不必要だから」という理由で切るのは結構大変。たかが胃薬であってもそれでうまくいっている人を急に切るとお腹の具合が悪くなったりするので。

高齢者の投薬をどのように中止するかそういう文献はあるのかなとuptodateを見てみたらちゃんとあった。論文自体が少ないらしいけど。

(関係ないけど、uptodateってすごいなと思う。臨床関連の話題はほとんどすべて網羅しているような気がする…)

まぁ書いてあることはだいたい同じで急に減らさずにゆっくり減らせとかまぁそんなこと。

後は本人がどういうふうに感じるかが重要だと思う。投薬を減らされて自分はもう積極的な加療の対象から外れてしまって見放されているんじゃないかという危機感を持たせないようにかなり慎重になる必要があると思う。

人間というか日本人?は薬を貰うと満足する性格みたいなので。

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