2011年12月23日金曜日

Common diseases.

色々な症状で病院を受診するけど内科系で一番困るのが腹痛。これはどうでも良い腸炎から消化管穿孔、尿管結石、また肝癌の骨転移だったり。痛みの部位によって鑑別診断が異なるんだよと言われても虫垂炎なんか心窩部→右下腹部へ移動するし、内科系の医者は(自分もそうだけど)婦人科疾患は結構弱い。軽症っぽい中に重症が、重症っぽい中に軽症が混ざっているからホント難しい。

一方簡単そうに見えるのが風邪。「風邪は診るのが簡単♪」という人と「風邪は本当は一番恐ろしい病気」という人の二種類いるような気がする。前者は内科以外の先生、後者は総合診療や感染症を専門or得意にしている先生に多い印象。

# 風邪症候群
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/search/guideline2009/01-1.htmlやuptodateを参考にしつつ。

#1 風邪はウイルスによるもの
抗生剤が有効なのは細菌感染に対してであってウイルスに対して「有効な」薬剤があるのは自分の知っている限りではHBV, HCV, HIV, HSV, RSV, インフルエンザくらい(忘れたけど後少しあるかも)。

一方風邪の原因ウイルスとして最も多いのはRhinovirusでCoronavirus, Influenza virusと続く。

インフルエンザ以外は特効薬が無いので端的に言えば「勝手に治るのを待ってください」というほかない(ちなみにインフルエンザでも合併症のリスクのある人以外は必ずしもタミフルやリレンザ、イナビルを処方する必要はない→けどまぁ処方する)。

#2 感染経路
くしゃみ鼻水の水滴からかと思っていたが、uptodateによれば一番は手からの感染が多いそう。なので手洗いは非常に重要(インフルエンザの場合はくしゃみ鼻水の水滴からが一番多いとのこと)。もちろんすでにかかってしまった患者さんに言ってもしょうがないところがあるが、少なくとも次の感染の予防を啓蒙できるはず。

#3 潜伏期
24~72時間程度とのこと。ただ、これはあまり意味が無い。食中毒と一緒で毎日同じ物を食べているわけではないので症状が起こってもどれが原因だったか推定が困難。仮に推定できたところで治療法や予後に大きく関わるのはそんなにない(例外:O-157等)ので普通はあまり気にしない。

結局聞くとすれば「人ごみの中に行きましたか?」とか「ご家族や普段行かれるところで風邪を引いたり熱が出たりした人がいますか?」とかその程度。

ちなみにシーズンでインフルエンザが近くで発生していればそれは極めてインフルエンザの可能性が高くなる。

#4 症状・所見
一般的な風邪症状・所見は自分は気にしていない。鼻水があったりなかったり。喉も痛かったりそうでもなかったり。熱もあったりなかったり。ただし次の症状はしっかり聞く。

喘息発作の有無:何でもない風邪であっても喘息の既往があれば(最後の発作が数年前であったとしても)喘息が再燃する可能性がある。今も発作があるなら重症化する可能性がある。そういう場合は必ず胸の音を聞いて発作の有無を確認する(非常に軽度の発作だと本人もあまり意識しないこともあるので)。ちなみに喘息のwheezeは呼気終末を聞く。
扁桃炎の有無:扁桃が腫大し白苔(ヨーグルトのかすみたいなの)が付いていれば溶連菌等かEBVの可能性。抗生剤の有無はCentor criteriaで迅速検査をして決定する、らしい(面倒だから自分はあまりしないけど)。EBVの伝染性単核球症であれば初回感染(基本的に二度とはかからない)、腹部膨満(肝脾腫)などがある。分かりにくければ血算分画を見る。EBV感染にペニシリン系の抗生剤を出すと皮疹が出ると言われているので鑑別がめんどくさければ自分はジスロマックかクラビットを出す(感染症の先生が憤慨しそうだけど)。
咳の強さ:咳喘息の可能性とマイコプラズマ肺炎の可能性(あと考えたくないけど百日咳、そして結核、たまに流行る)。まあいろいろな考え方があるけれど、診察室でゴホゴホ言っていたら十分咳が強い(みんな咳が出るとは言うものの診察室ではほとんど咳をしない)。マイコプラズマ肺炎は小児で多いけれど、成人でもいる。結構しつこい咳、抗生剤(大体クラリスかジスロマック、クラビットでも良い)を飲めば数日でかなり改善する。咳喘息やマイコプラズマにメジコンやコルドリン(鎮咳薬)を出しても効かない。
呼吸苦の有無:扁桃の腫脹が強ければ気道を圧迫する可能性がある。後は急性喉頭蓋炎ではっきり言って見たことがない。明らかな予兆があれば(首元でヒューヒューするとか明らかな息ができなさそう)耳鼻科に行ってもらう方が無難。緊急的に気管切開をする必要があるけど、ふだんやらないことを緊急でできるわけがない。
悪寒の有無:体温は見るけれどあまり重視しない。しかし、その診察時点で悪寒があればこれから体温は更に上がる、少なくとも下がりはしないと言える。
経過の長さ:一週間以上も症状がずっと続いている、もしくは前医で風邪と言われたが治らないのでやってきた、という人はそれだけで採血と胸写の適応が十分あると考える。


#5 風邪と何を間違えてはいけないのか
はっきり言って「風邪」の症状の時点でほかの病気と100%鑑別を行うことは不可能と思う。色々な病気が「初期は風邪症状」なんて書いてあるし見分けがつかない。

じゃあ何が出来るかというと患者さんに典型的な風邪症状の転帰を伝えそれに外れれば受診し精査を受けるようにする。教科書には色々書いてあるけれど、自分が実践しているのは

・大体1週間くらいで治るか改善傾向になる。例えば肺炎は適切な治療と休養がなければ結構長引くので変わらない場合は受診して欲しい
・薬を飲めば症状は軽くなるけれど、100%消えることはない。また薬の効き方は人によって多少違う
・風邪の症状で別の病気がわかることもあるけれど、今現時点でそれを判断するのは難しいしこの症状では検査をする意義も乏しい。他の症状が出てくれば精査をする

重要なのは「不必要な再診を防ぐこと」(薬を1日分飲んだのに全然良くなりません!と来る人もいる)と「重症例をしっかりフォローすること」(前の病院ではただの風邪と言われたのに実は肺炎だった!あの病院は藪だ!と言われないように)

大半は寝てれば治る人たち。

#6 何を処方するか
これは好みによるところが多い。自分がよく処方するもの(量はいつもの処方の感覚なのでmgが違えば変わります、要確認)。時間外であれば自分は全例3日分(人によっては1日分しか処方しないという人も)。

PL:3g3x 3~5日分。総合感冒薬。アセトアミノフェン、抗ヒスタミン薬、カフェインなど色々入っている。便利。たまに指定してくる人もいる。粉がダメという人もいる(ピーエイ錠があるけど)。PLにカロナール(コカールなど)を出す場合はアセトアミノフェンの用量を確認すること。色々入りすぎてかえって嫌だ、という人もいる(抗コリン作用のある薬も含むので尿閉をきたすかも、らしい。自分は経験したことないけど)。
ロキソニン:3T3x 3~5日分。NSAIDsの解熱鎮痛剤の代表選手。ロキソニンは少なくてそのジェネリックを使っているところが多いのでは?長期服用で胃粘膜障害(胃潰瘍)が起こるのでムコスタ(レバミピド) 3T3x 3~5日分を併用する。個人的にはムコスタを飲んでも胃潰瘍になる人がいるので効果の程は???だけど、みんな出す。
ちなみに「ウイルス感染にロキソニンは禁忌だ」という人がいる。かと思えば風邪の患者さんに臆せずにロキソニンを連発する人もいる。インフルエンザにもロキソニンを出す人がまれにいる(インフルエンザにはアセトアミノフェンが唯一使える解熱鎮痛剤ということになっている)。これは恐らくアスピリンを内服してライ症候群を起こしたことによるものと思われるがロキソニンはロキソプロフェンでピリン系では無いので厳密には違うとは思うんだが、羹に懲りてナマズを吹くような感じか。
トランサミン:6C3x  3~5日分。止血剤。喉の腫れを取るとのこと。前の病院のツンデレ薬剤師さんがこれいいですよと言っていたのでよく処方するけど、効くか効かないかはイマイチ不明。ちなみに似たような使い方をする薬にダーゼンがあったけど、効果がないということで発売中止になってしまった。
漢方薬:よく出されるのが葛根湯や麻黄湯。これは急性期(まだ汗を書いていないとき)でかつ体力のある人。小青竜湯はくしゃみや鼻水と言った症状が強い時。結構風邪が続いていて体力が低下している人は補中益気湯が適応。あまり自分では出さないけれど、欲しいという人がいればこういう薬を出す、程度。
イソジンhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16242593にイソジンよりも水のうがいが良いと書いてある(予防についてだけど)。これを読んでから基本的には出さない。でも患者さんが欲しいといえば出す、という程度。
SP トローチ:6T/day 3~5日分。これを欲しいという人もいる。舐めておいしいので欲しいといえば出す。
アレグラ:2T2x  3~5日分。特に鼻炎症状が強い人に(あまり使っても効果はないというけれど)。

色々書いたけど、自分が患者だったらロキソニンだけもらう。だって風邪で辛いのは喉が痛くて熱が上がってだるい。それを解決するのはロキソニンだけで十分(短期間の服用であればムコスタは不要)。

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