2011年12月4日日曜日

Clinical practice 6

今回は内科系。自分の診た症例ではなく申し送られた症例で患者の顔を一度も見ていないけれど、いろいろな意味で示唆に富んでいたので(いつものごとく若干のフィクションが入っています)。

Case 70歳代女性
既往にLC, DMあり大腿骨頚部骨折でリハビリ加療中。2日前から食事をするときに箸が口までうまくいかないという主訴で前の当直医をコール。

当直医の診察時は12脳神経は異常なし、筋力低下なし。膝踵試験は陰性、回内回外正常、Rombergできず、指鼻指は稚拙。低血糖は否定。なぜか長谷川式も行なっていて以前17pts -> 5ptsへdown.

当直医は小脳梗塞の可能性を考えて頭部CTをオーダー(CT, Xpは撮れる病院)。しかし出血なし、明らかな脳浮腫は見られず、脳梗塞は否定できないものの確定できずということで経過観察。

翌日意識レベルが低下したため、脳浮腫の増悪やその他の可能性を考えて転院搬送。その後「どうしたらよかったんでしょうかね?」という相談を受けた。

#1 病院の役割
そこはリハビリ病院で積極的な加療ができない(CTが置いてあったのも前の病院からの引継ぎでいずれなくなる予定)。明らかな異常があれば精査を含めて搬送するのは仕方がないと思う。

送る側として怖いのは「何もありませんでしたよ♪」と言われることと「なんでもっと早く送らなかったんですか!」と言われること。普通医者同士でそこまで悪く言うことはないので後者はないにしても前者を言われるとなんか落ち込む。だから前者と後者の間で苦渋の決断をするわけ。

#2 勘違い?
最初話を聞いた時LCをずっとlung cancerだと思っていた。まあ普通に考えればliver cirrhosisなのかもしれないけれど、最近自分が診ているのはlung cancer >>>>>> liver cirrhosisなので「いやぁ、small cellかnon smallかでも全身症状が変わってくることもありますからねぇ。SIADHとかそこら辺も考慮する必要がありそうですね」と言ってしまった。

当直医もそうですねと言っていたしそもそも「LCで外来フォローはあったようですが治療はされていなかったようです」という言い回し自体がもしかしてその先生もlung cancerと勘違いしていたのでは?と思った。肝硬変の場合(まぁ利尿剤とか肝庇護剤とかそれくらいで)移植以外に治療らしい治療も無い、というかしようがない。なので肺癌で年齢・体力的にも抗癌剤に耐えられないだろう、だから経過観察にしたのだろうと考えた。

#3 鑑別診断
小脳梗塞は結構曲者でMRI撮らないと分からないことがある。典型的な症状だといいけれど、お年寄りはただでさえふらふらするしParkinson病などが背景にあると結局なんだかわからなくなる。だから最初に診察した時に分からないのは仕方ないし自分もわからないと思う。

ただ、その翌日の意識レベルが低下した時点で小脳梗塞は可能性がグッと下がる。もちろん脳浮腫を起こしている可能性は否定できないけれど、基本的には脳梗塞では意識レベルが低下しないことになっている(中大脳動脈があるじゃないかといわれればまぁそうなんだけど)。

なので、その時点で低血糖を否定して「原因不明の意識障害、r/o 脳梗塞」として精査加療を依頼するのが正解でその当直医もそうしていた。ただ当直医は小脳梗塞に傾いていたみたいだけど。

#4 搬送後
結局その当直医が診て搬送してその後搬送先から報告があった。

結果は肝性脳症は少なくともあって(アンモニア 150↑)で、動くのでMRIは撮れないとのこと。

聞いた後病棟に行って看護師さんに話を聞いてカルテを見て肝硬変の既往を確認した。

看護師さんは肝性脳症を見たことがなかったらしく「右手だけじゃなくて両手両足震えてたんですね」という。口臭については覚えていないと。長谷川式が低かったのは多分意識レベルが低下していたからだろう。多分上記経過を矛盾なく説明できる所見。

前の当直医と連絡していないので事実がどうなのかは分からないけど(後で連絡してやっぱり肺癌だと思っていたらしい)、まぁ悩ましい症例だったんだろうなと思う。

#5 身体診察の意義
総合診療をmain fieldにする先生たちはすごく身体診察を重視する。自分も一時期「問診と診察だけで80%(たしかこれくらい)は診断がわかるってすげーなー」と思っていたが、診察を取る人の間で所見が異なること(interobserver difference)や、実際は医療訴訟などの問題でCT, レントゲン、採血といった客観的、(ある程度の)再現性のあるデータを重要視されるようになってきてあまり深入りしないようになってきた。

ただし、問診に関しては話は別で前情報があるのとないのとでは雲泥の差があり(例えば高齢者で糖尿病の既往があるといった時点で全ての些細な症状を拾い上げる必要がある)、一番重要。なので自分の中での優先順位は

1. バイタルサイン(生きるか死ぬかをまず判断)
2. 問診(含む既往歴、薬剤内服等々)
3. 画像診断(CT, MRI > Xp)、血液検査。胸写は撮影条件が変わると全く変わって見える
4. 身体診察
5. 年齢、性別

年齢や性別は一応頭の中に入れるけど、鑑別を考えた最後に考慮して疾患を除外することにしている。好発年齢や性別というのはあくまで好発なわけで、非典型例なんていくらでもいる。「20歳男性、発熱、咳」でも肺炎はありうるし「35歳男性、回転性の目眩」でも小脳梗塞はある(これはさすがに一度は見逃して二度目の受診でもしかしてとMRIをとって判明したもの)。

バイタルサイン(SpO2, BP, HR, Urine, BT, RRはあまり測らないけど)は自分の中では結構重視していて、普段外来をしている病院では看護師さんがバイタルを測ってくれないので非常にstressful!

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