2011年11月5日土曜日

Medical practice 5.

Case お腹がいたい
40歳代の男性。朝からお腹が痛いとのことで受診。数日前にも同様の症状で受診しその際は点滴を受け痛みは少し良くなり膵炎ではないとされ帰宅していた。バイタルは血圧140/90mmHg, 脈拍120/minで発熱はなし。腹部はやや膨満、臍上部に圧痛あるが柔らかい。腸雑音聴取可能も低下。本人いわくお腹から背中にかけての痛みだとのこと。毎日飲酒しており既往に急性膵炎で入院歴あり。

♯鑑別診断
この人は毎日飲酒があるようで昨日もやっぱり飲んでいる。そして以前にも膵炎をやったとのこと。前回の痛みと似ていると。それだけ来れば膵炎で間違いないと思う。まあ鑑別診断は本当は例えば大動脈解離や心筋梗塞、胆石発作、胆嚢炎、尿管結石など色々思いつく。もちろんエピソードや身体所見はそれぞれ特徴的なものがあって、間違えることは少ないけれど、話を聞いてすっぱり除外できるかというとそういうものでもない。

#先入観はやっぱり大切
先入観を持つのはあまり良くないとされているが、本人が「前と一緒」と言っている以上は基本的に膵炎を疑って診断をつけるのが普通。膵炎を考えつつ他の鑑別診断も頭の中に入れておいて、ある程度網羅的な検査をする。経過や検査結果が典型的でなければ他の病気を考える、というのが普通の姿勢。

♯診断基準

膵炎は重症になるとかなり大変でそれでも結局することはほとんど変わらないのだけれども(石があればドレナージしたり透析をしたり)、重症急性膵炎の死亡率は9%なので結構侮れずもし重症であれば病状説明はかなり丁寧にする必要がある。というわけで重症膵炎の診断基準はかなりガッチリしているけれど、膵炎自体の基準は驚くほど適当。
1. 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。
2. 血中, または尿中に膵酵素の上昇がある。
3. 超音波, CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある。
上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。ただし、慢性膵炎の急性発症は急性膵炎に含める。
という痛みがあってアミラーゼが上がっているか画像で膵臓が腫れていれば膵炎、というもの

♯そういえば肺炎の診断基準も…
肺炎も同様で重症度やリスクの分類はあるけれど肺炎かどうかというのは意外と無い気がする。よく見るのは細菌性肺炎か非定型肺炎かの鑑別で
1. 年齢60歳未満
2. 基礎疾患がない、あるいは軽微
3. 頑固な咳がある
4. 胸部聴診所見が乏しい
5. 痰がない, あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない
6. 末梢血白血球数が10000/μL未満である
4項目以上合致:非定型肺炎疑い, 3項目以下:細菌性肺炎疑い
というもの。これはあくまで肺炎という前提での話で肺炎でないならあまりこの基準の意味はない。例えば喫煙者やACE阻害剤の副作用でも非定型肺炎になってしまいうるし、扁桃炎が細菌性肺炎になってしまう。

♯思ったほどではないが…
結局CTで膵が腫大し炎症が周囲に波及していた、。アミラーゼは200位で正常値を若干上回るくらいだった。思ったほど検査値は派手ではないが(すごい人はすごいので)、まあ後から重症化することもありうる。後は輸液をじゃんじゃん流す、抗生剤や蛋白分解酵素阻害剤は個人的にはおまけ程度。ただ本人に「軽い病気というわけじゃないんだからじっとしていてね、お酒を飲むのはもってのほか」というにはよいかも。

♯結局繰り返す
CTで膵の石灰化もないし実質も保たれていたので前回が初めてというのは嘘ではなさそう。

ただそれでも懲りずに毎日飲酒を続けるのはあまり賢くないけれど考えようによってはそれくらい信念をもって飲酒しなければ膵炎にならないとも言えるかも。

ちなみに心電図をとる時に脈拍が40/min位まで下がっていた。本当に痛いのだろう。

♯ソセゴン(ペンタゾシン)中毒
今回の例とは関係ないが、どこにでもいる。自称慢性膵炎でどこで書かれたかも分からないようなボロボロの紹介状をもって初診でしかも夜間や休日に来る人が。本当にどこで入れたかCVまで入れていた人もいた。どこで管理しているのやら…。

膵炎で疼痛コントロールのために仕方なく使って依存になったというケースや本当の慢性膵炎は痛いらしいのでまあ仕方ないけれど、お互いに依存はさせたくないのが本音。

自分のいたところだけかと思っていたけれども本を読んだりネットで見ると意外とどこでもいるみたい。

0 件のコメント: